花明かりの夜に
序章
「何だか騒がしいね」
次の矢をつがえようと優雅に伸ばした手が、ふと止まった。
ふと目をやった障子の外を眺めてゆるりとつぶやく。
「おや、あれは何?」
「あれ、とは何でしょう、若さま」
ちょうど廊下を通りかかった女中にたずねられて、“若さま”と呼ばれた男――紫焔(しえん)は形のよい顎をかるく上げて外を指し示した。
「ほら、見てごらん。あそこの木」
庭の大きな木の、葉が落ちた高い枝の先に垂れ下がるのは、何やら色とりどりのもの。
風にあおられて、ひらひらとなびいている。
次の矢をつがえようと優雅に伸ばした手が、ふと止まった。
ふと目をやった障子の外を眺めてゆるりとつぶやく。
「おや、あれは何?」
「あれ、とは何でしょう、若さま」
ちょうど廊下を通りかかった女中にたずねられて、“若さま”と呼ばれた男――紫焔(しえん)は形のよい顎をかるく上げて外を指し示した。
「ほら、見てごらん。あそこの木」
庭の大きな木の、葉が落ちた高い枝の先に垂れ下がるのは、何やら色とりどりのもの。
風にあおられて、ひらひらとなびいている。
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