花明かりの夜に
唇を噛んで言葉も無い沙耶を、どこか冷ややかに見下ろす。


「君の肌に傷を付けたくはない。

さっさと降参するといい」

「……だれが、降参など」


沙耶のいらえに、紫焔は「そう来ると思った」とばかりにうなずく。

余裕のうすい笑みを、その白い頬に浮かべて。


「……ひどいわ、若さま。

今まで手加減なさっていたのね」

「……手加減?」


意外そうに眉を上げてほほえむその美しい顔が、ひどく憎らしかった。

こちらの手をすべて見切るために、あえて打ち放題打たせていた。単にそういうことだったのだ。


(何かと褒められていい気になって――すっかり乗せられた)


もはや、何に対して意地を張っているのかさえわからない。

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