花明かりの夜に
「……」

「それとも、わたしが怖いの?」


(あ……)


襟元の合わせ目から侵入する繊細な指先が、やわらかい肌に触れた。

指の先が触れた肌から、何かが弾けて割れる音がする。


持ち上げられた顎に唇が近づいて、そっと合わさって。

心臓の鼓動が体中に響く。


(若さま――)



(ええ、怖いんです――

あなたが近づいてくるのが――


あなたに、心を囚われてしまうのが)


唇が離れると、黒い瞳と沙耶の視線がじっと絡みあった。
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