花明かりの夜に
(若さま……)


沙耶の白い頬がほんのりと朱に染まるのが、ぼんやりとした行灯のあかりに照らされた。


まるで夢のよう。

自分のとなりに、美しい若君がいるなんて。


(こんなことになるなんて――信じられない)


――何もかも恵まれた若君が、どうして自分などに興味を持つのか。


(でも、こうして――)


握られた手を、そっと握り返した。

おずおずと。



うつむく沙耶の背後で、紫焔の口端がほんのすこし持ち上がるのが、わずかな灯りに浮かび上がった。

沙耶の耳元に、うしろからそっと囁く。
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