花明かりの夜に
(桔梗さま、どうされているのかしら)


あれだけ恩義がある恩義があると言っていたくせに、何も言わずに出てきてしまった。


あのとき、“永の別れじゃあるまいし”と桔梗は言ったけれど。

結局あれきり顔を見ることがなかった。


(元気にしています、とだけでも送ろうか)


それとも自分のことなどとうに忘れているかもしれない。



夕焼けの赤い空気があたりにたちこめるなか、道の向こうからやってくる出入りの豆腐屋が目に入った。


「いつも精が出るね、すみれちゃん。

すっかり過ごしやすくなったな。今日は特に暖かいな」


沙耶ににっこり笑いかけると、旅籠から出てきた老主人に豆腐の入った器を手渡す。

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