花明かりの夜に
誰とも心を通わせることなく。



「ねぇ、沙耶」


手綱をとる紫焔の声が、後ろから掛けられた。


「嫌なことがあるたびに逃げていてはキリがない」

「……」


手厳しい言葉に、思わずうつむく。


「もちろん、いったんは楽になるし、逃げたい気持ちはよくわかる。

物理的に逃げないとどうしようもない状況だって、あるだろう――昔の君のように」

「……はい」

「でも結局は同じことだ。

逃げてもずっとそれはついてくる。影のように。

――君が過去から逃れられなかったように」

「……はい」
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