花明かりの夜に
その男は沙耶が気付いたと知ると、にやにやと嫌な笑いを浮かべて近寄ってくる。
「おう、“あやめ”。久しぶりだな。
ずいぶん出世したもんだな」
「……」
自分の顔がみるみるうちにこわばっていく。
呼吸がうまく出来なくて、過呼吸気味になった。
「弥之介!」
顔を見ただけで吐きそうになった。
細い目は淫らな光が浮かび、口元はいやな笑いにひきゆがんで。
数年経って、弥之介も年を取っていた。
若いうちは整った顔立ちが勝っていたが、今やだらしない、ただの場末の悪党に見える。