花明かりの夜に
「あれは母上の着物じゃないかな。
さっきの強い風で飛ばされたにちがいない」
「……まぁ、大変!
奥方さまのお着物が!」
女中がすっ頓狂な声をあげて急いで走って行こうとするのへ、紫焔はすばやく声を掛けた。
「待って、誰かが木の上にいる」
紫焔の視線の先をたどると。
高い高い木の上の方へ、つぎつぎと枝に手を伸ばして身軽に上がっていくほっそりとした姿があった。
(――女?)
ほっそりした体を包む、深い藍色一色の質素ないでたちは、この屋敷の女中のもの。
さっきの強い風で飛ばされたにちがいない」
「……まぁ、大変!
奥方さまのお着物が!」
女中がすっ頓狂な声をあげて急いで走って行こうとするのへ、紫焔はすばやく声を掛けた。
「待って、誰かが木の上にいる」
紫焔の視線の先をたどると。
高い高い木の上の方へ、つぎつぎと枝に手を伸ばして身軽に上がっていくほっそりとした姿があった。
(――女?)
ほっそりした体を包む、深い藍色一色の質素ないでたちは、この屋敷の女中のもの。