花明かりの夜に
――と。

心臓の鼓動がすぅっと落ち着いて、動揺がおさまってきた。


(大丈夫、落ち着いて)


自分に言い聞かせて、肩を上下させて呼吸を整える。


(そう。今逃げても、ずっとこの男の影に怯えることになる)

(自分のことが世間に知られないか――いつこの男が現れて自分の生活が壊されるか、びくびくしながら。

――そんなのイヤよ)


負けない。


沙耶は目を開いた。

精一杯、目の前の弥之介をにらみつける。

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