天然王子
 

「……なんでもない」


王子は言いかけてやめると、そのままホテルの入口に向かって歩きだした。


「え…ちょっと…なに?」


私が王子の腕を掴むと、王子は片手で頭を掻いた。

長い前髪で、顔が隠れる

顔が見えないと、何を考えてるのかもわからないよ…


「今…シュンが……」


電話の相手は、シュンくん?

何を言ったの?
何を言われたの?


「羽矢、何か、勘違いしてる?」


私、昨日なにもなかったんだよ?

本当に…


「……ごめん…たぶん、俺今なに言われても信じれない」

「何、を…?」

「ハルのこと」


前髪のすき間から真っ直ぐと私を見る王子の目は、どこか寂しそうで…

なんで、そんな目するの?


「…ごめん」


王子は、そう一言だけ言うと、一人で中に入って行ってしまった。

わけが、わからない

とにかく頭が真っ白で、でも真っ黒に塗り潰されたみたいにぐしゃぐしゃで…

思考が、ついていかなかった。


< 176 / 199 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop