天然王子
「……なんでもない」
王子は言いかけてやめると、そのままホテルの入口に向かって歩きだした。
「え…ちょっと…なに?」
私が王子の腕を掴むと、王子は片手で頭を掻いた。
長い前髪で、顔が隠れる
顔が見えないと、何を考えてるのかもわからないよ…
「今…シュンが……」
電話の相手は、シュンくん?
何を言ったの?
何を言われたの?
「羽矢、何か、勘違いしてる?」
私、昨日なにもなかったんだよ?
本当に…
「……ごめん…たぶん、俺今なに言われても信じれない」
「何、を…?」
「ハルのこと」
前髪のすき間から真っ直ぐと私を見る王子の目は、どこか寂しそうで…
なんで、そんな目するの?
「…ごめん」
王子は、そう一言だけ言うと、一人で中に入って行ってしまった。
わけが、わからない
とにかく頭が真っ白で、でも真っ黒に塗り潰されたみたいにぐしゃぐしゃで…
思考が、ついていかなかった。