白の道化師
さて、静が向かっている柊南天高等学校は日本有数の能力保持者育成機関。
つまりは超能力について学ぶ為の学校だ。
数学や国語、英語などの普通の教科もある。普通の学校に『超能力学』が追加されるだけだ。
「おお〜!ここが柊南天高等学校か。立派だね〜」
一般校舎と能力保持者校舎とで分けられているらしい。
能力保持者校舎の方が新しいようで褪せた一般校舎と違い眩しいほど真っ白だった。
静はフンフンと鼻歌を歌いながら能力保持者校舎に足を踏み入れた。
◇
「君が間宮静さんかね」
いかにも理事長、といった感じの初老の男は静をじっくりと観察するように見た。
理事長…柊南天裕美(ひいらぎひろみ)は1468人の『危険度SSS指定人物』の一人だ。
能力は『重力操作』。
まさにチート(反則)と呼ぶべき能力と言える。
「はい。今日からよろしくお願いしますねぇ」
静はいつものようにへラリと笑い戯(おど)けるピエロのように深く腰を折った。
「Eクラスといったか」
手元の資料に目を落としつつ裕美は訊いた。
訊いた、と言っても答えを求めたわけではないのだが。
「ほう。筆記試験は6教科中4教科が満点、他の2教科も90点代後半とな。優秀な子だね」
6教科とは国語、数学、英語、理科、社会、超能力学である。90点代後半をマークしたのは国語と英語だった。
「いやぁ、それほど凄いものでもないですよ〜。ただ覚えればいいだけですから〜」
それが出来ればどれだけ苦労しないものか。
裕美はそう思ったが口にはしなかった。
「能力は…自己治癒か」
そう珍しいものではなかった。実際この学校にもCクラスの自己治癒能力保持者がいる。
「はい。多少の怪我ならお任せあれです」
フフン、と胸を張る静に裕美は優しく微笑みかけた。
「ふむ。君さえよければ今日から授業を受けられるのだがどうするかね」
それを聞いた途端、静は目を見開き輝かせた。
「本当ですか?!受けるのですぅ〜!!」
ピョンと跳ねた拍子にフードが取れた。
肩までの白い髪と赤い目が露わになる。
裕美はニコリと笑った。
今の時代、能力によって髪や瞳が変色するのは珍しくない。
「素敵な髪と目をお持ちだ。それに美人さんだね」
「お世辞を言っても何もでないのですからね〜」
ツーンとするがその耳が朱に染まっているのを見て裕美はフフ、と笑った。
「この学校には一般生しか制服は無いからその格好でいい。超能力学では実技もあるからね、その度(たび)に破れてしまったりしては堪らん」
そう苦々しく言う裕美に静はクスクスと笑った。
「さて、職員室に担任の橋口がいるだろうから後のことは彼に訊きなさい。それでは編入おめでとう。君の学校生活が有意義なものになることを願っておるよ」
「はい〜。ありがとうございます〜」
理事長室を出ると、すぐ隣の職員室へ向かった。
「さて、彼女の存在は吉と出るか凶とでるか…」
静が出て行った後、理事長が目を細めて呟いていたのを彼女は知らない。