君が居た頃。
住宅地の角を曲がり、
ちょうど家が見えなくなった所で、
湊魅は急に立ち止まった。
「はぁ……………緊張したぁ」
「え?」
そんな風に見えなかった、と
湊魅の背中に首をかしげると、
湊魅は照れたようにはにかんで
振り返った。
「大切な季織を誘い出すんだよ?
すっごい好印象でいなきゃ
送り出せないじゃない?」
「………うん。なんか王子さまだった……」
「は?王子さま?」
湊魅には訳分からないだろうけど、
素直な感想なんだ。
「それしか例えようがないし」
「んー……?何訳分からないこと
いってんの?」
呆れたような表情の湊魅は、
再びほどいていた私の手を引く。
「意味不明。行くぞ、お 姫 サ マ」
「…………っなにそれ!?」
からかわれてるとしても、
こんなにドキドキさせるなんて
あんまりだ!
「季織に合わせたんだよー」
小馬鹿にしてクスクス笑う湊魅。
照れ屋の癖に、天然たらしですか?
もう…………。
「─で?どこにいくの?」
「あっそうそう。海が見たくて!」
「海?」
「うん。新曲は夏の歌がいいから、
海を見てイメージ膨らませるために。
でも、恋の歌がいいから、
季織がいた方がいいかなって……」
私と居たら……恋の歌が書けるの?
それって……。
今すぐにでも問いたかったけど、
口を紡ぐ。
今はただ、二人の手のひらが
触れていればいいから。