君が居た頃。
「俺も、喘息もちだから
止められてたんだよなぁ」

二人の似たり寄ったりな体験談に、
しんみりと共感の余韻に浸る。

その沈黙を破ったのは、
湊魅の唐突な一言。

「よしっ!俺、泳ぐ!」

──えっ?

「な、なに?!急に…」

そしてイキナリ上を脱いだ。
ちょ……っ!

「だってやれないこと
やってみたいじゃん!」

─やれないこと……。


大袈裟に水飛沫が上がり、
楕円を描く水面から
数秒後に湊魅が顔を出す。

「………っはぁ!
これ逆に呼吸法とか学べそう!」

「本当に?大丈夫?」

「大丈夫だって!」

てゆうかビショビショだけど…。

無邪気に笑いながら
左腕で目を擦る湊魅。

その笑顔がぎこちなくなった時、
不意に指の間から覗いた瞳が揺らいで

細く、涙が零れた。


「…………どうして…」


思わず言葉をゆるゆると吐き溢す。


「…………………いつかは言わなきゃって……
ずっと……わかってんだけど……」


震えるように声を絞る湊魅。
その瞳から零れた涙は、
海に落ちて弧を描く。


「…………あのさ………実は」


この先放たれる言葉が怖くて、
本当は気が気でない。


だけど、聞いてあげなきゃ………。


こっちまで泣きそうになる。

そんな緊迫感の中。
顔を上げた湊魅が
まっすぐに私の目を見つめて告げた。




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