君が居た頃。
ぐらぐらと視界が歪んだ。
また、治療に失敗したら
どうなるんだろう。
走馬灯のように駆け巡る
嫌な未来予想図を
振り払える腕の力は
もう、残っていなかった。
気づけなかった。
季織の体が蝕まれていくと共に、
知らず知らずの内に
俺の精神も蝕まれていたこと。
「撮影再開します!」
その声に、条件反射のように
立ち上がるけれど
足取りは頼りなく、
視界は歪んだ。
何も見えなくなった。
息のしかたを忘れた。
あの日、季織と出会った日のように。
でも、季織はここに居ない。
何処にも居なくなるかもしれない。
うまく呼吸が出来ない。
季織、ねぇ季織……………。
これだけ苦しくても、
季織の苦しみとは
代わってやれないんだね。
気付いたら、
何も聴こえなくなっていた。