白いジャージリターンズ~先生と私と空~
直のこと 【先生目線】
―直のこと―
直の様子がおかしい。
原因は、空の骨折のことだけど、それだけではないかもしれない。
俺が直に隠し事をして、いらない心配をさせて、その後に骨折。
予定よりギプスが長引いたことで、空が我慢できなくなった。
一日中隣にいる直が一番、空の辛さも頑張りもわかるだけに……
荒れている空に、強く言えないんだと言っていた。
「今日は早いね」
玄関先で迎えてくれた直。
「今週は早く帰れるよ」
今、我が家にとって、緊急事態。
部活の担当を代わってもらうことができた。
「空、どう?」
直は、俺から目をそらし、うつむいた。
「直、ひとりで悩むなよ。俺もいるんだから」
「ありがと……でも……」
空は、俺が帰ってきたことも気付かずテレビに熱中している。
「そ~らっ」
「パパ~!!」
走ってくる空は、いつも通りの空なんだけど。
「じゃあ、晩御飯にするね」
直がそう言うと、空はお腹が減ってない、と言う。
「空、ママを困らせちゃダメだろ?お腹減ってないなら、ちょっと公園でも行くか」
「行く行く!!」
俺は、直に目配せして、公園へ行くことにした。
俺がいる時の空も、直に対してかわいくない態度を取るが、俺がいない時はもっとひどい。
空を溺愛している直の気持ちを考えると……
かわいそうでならない。
でも、骨折したストレスをどこかで発散しないとおかしくなっちゃうんだろう、とも思う。
「空、ママ好き?」
「きらい、きらい。ママきらい」
「おぉ?そうか。じゃあ、パパがもらっちゃうからね」
まだ小さな空の手をぎゅっと握る。
「パパにはあげないけど」
「きらいなら、ちょうだい。ママとずっと一緒にいる空がうらやましいもん」
「じゃあ、これもあげる」
空は、足のギプスを俺に見せる。
胸が痛くなる。
空にとって、この重くて硬いギプスがどれほどのストレスなのか。
「それな。空の大事な骨を治してくれてるんだよ。それを取ると、骨がちゃんとくっつかないんだ。将来、ボールを蹴ったり、走ったりする時にちゃんと動かないかもしれない」
「パパ、ブランコ」
走り出す空。
子育てって難しい。
俺は、高校生相手にいつも話しているから、息子なのに空にどう伝えていいのかわからないよ。