白いジャージリターンズ~先生と私と空~


「ん?どした?」



こんな時に、大好きなセリフを言われた。

高校時代、よく言ってた。



授業中、空を見てる私の頭コツンってして。

『矢沢、どした?』って。



廊下ですれ違う先生に挨拶されて、嬉しくてニヤける私に

『どした?俺の顔に何かついてる?』って。



先生の、どした?が大好きで。


その時の顔もかわいくて。




大好きだよ。

大好きだから不安になるの。


世界のみんなが先生を好きなんじゃないかって思っちゃうの。


大好きだから、許して。



「もし、あの時転勤してたらどうなってたかな?」


私は、先生を見つめながらそう言った。


手を止めた先生。

コーヒーから視線を外し、私を見て、その後ソファの横に飾ってある写真の方を見た。

「……あの時……そうだな。うん。転勤するかもしれないって言ったよな。あんな時に、お前から離れるなんてできないよ」


「もし、転勤してたら、会えなくなってた」


目が合う。


「そばにいてやりたい気持ちと、転勤したらもう我慢しなくていいんだって気持ちがあった。でも、高校生の直をそばで支えたかったから……転勤しなくて良かった」


「転勤しても、それっきりにはならなかった?」


先生は目を丸くして、私を見た。


「当たり前だろぉ?あんな寂しい顔した直をほっておけると思う?それに、転勤が決まったら直もそれっきりなんて無理だっただろ?」



言われてみればそう。

さよならなんて考えられない。



「どういう形にしても、俺は直と付き合って、結婚したと思う」



まっすぐにこんなことを言ってくれる先生を疑ってしまう自分が醜い。


ごめんね、先生。



< 65 / 173 >

この作品をシェア

pagetop