白いジャージリターンズ~先生と私と空~
「新垣先生っ!!来ちゃった!」
スラッとした細い女性、ロングヘア。
クールな表情はあの頃のまま。
「荒木っ!?」
直と同じ学年で、ずっと俺を好きでいてくれた荒木だった。
俺と直がこっそり音楽室で会っていることを、教頭に告げ口したのも荒木だった。
直に対して嫌がらせもたくさんした荒木だったが、同窓会で再会し、
直は自分が荒木の立場だったかもしれない、と言っていたっけ。
「新垣先生、変わらないね」
「お前も、変わらないけど、大人になったな」
「そりゃそうだよ。何年前だと思ってんの?」
荒木は、持っていた紙袋を俺に渡す。
「これ、矢沢さんと先生におみやげ」
「おぉ~!悪いな。サンキュ」
「職場の近くのお店のプリンなんだけど、先生好きだったよね」
今でも俺の好物を覚えてくれているなんて、な。
「5つもいいの?うち、3人だから今一緒に食う?」
「え~!じゃあ、コーヒーいれてよ。先生」
今日は、仕事が早く終わったので、帰りに会いに来てくれたらしい。
卒業生が会いに来てくれることは時々あるけど、さすがにもうあの学年の子は滅多に来ない。
「矢沢さんが心配してると思ってさ、報告しに来た。私、結婚するの」
コーヒーカップを持つ手が止まる。
「そうか、そうか!!おめでとう」
「何、安心した顔してんの?自分のせいで私が不幸になったら責任感じるんでしょ」
「そんなんじゃないよ。そうか、いい人と出会えたんだな」
荒木は、プリンの表面をスプーンでツンツンとしながら、優しい表情で言った。
「私のこと、すっごく大事にしてくれる人だよ」
あの頃、高校生だったみんなが、恋をして、失恋をして、また恋をして……
結婚して、離婚するやつもいて、
独身のやつもいる。
教師って仕事はすごいな、と思うんだ。
ひとりの人間の人生っていうか、そういうの見守ることができるんだから。
はっきり思い出すことができる。
当時の荒木のこと。
俺に何度も告白してきたし、泣きながら怒ったり、急に無視したり。
情緒不安定なところが心配だったけど、同窓会で会った時は落ち着いていて驚いた。
「矢沢さんってお人よしだからさ。荒木さんが幸せにならなきゃ私も幸せじゃない!とか言いそうでしょ」
荒木は、懐かしい昔を見るように遠い目をして言った。
その視線の先にいるのは、高校生の矢沢直なんだろう。
「よくわかってんな。その通り、時々話題に出るよ。多分、荒木の気持ちが真剣だったって直もわかるから、重ねちゃうんじゃないかな」
「あの純粋さが大嫌いだった。いい子ぶってさ。でも、あれ計算でもなんでもなくあの子の性格なんだもんね。あれはあれで大変だろうね」
荒木が教頭に言ってくれなかったら、俺達はどうなっていたんだろう。
あの時、ストップかけてくれたおかげで、問題にならずに卒業できたのかなとも思う。