白いジャージリターンズ~先生と私と空~
「なぁ、お前にこんな相談するのも恥ずかしいんだけど聞いてくれる?」
俺は、校庭にいる長谷川先生を確認してから小さな声で荒木に話した。
ある先生から相談を受けていることと、そのことを直に言えないでいること。
「はぁ?何それ」
荒木はドスの効いた低い声を出した。
その怒りの矛先は長谷川先生かと思いきや、違っていた。
「見損なった!先生、全然わかってないね」
「え……やっぱり俺?」
直はこんな怒り方をしないから、改めて思う。
直は、感情をぶつける前にいろいろ考えて、悩んで、言葉を選ぶんだな。
「バカじゃないの?私も矢沢さんも、高校時代どれだけ先生のこと見てたかわかる?もう、どんな小さな変化だって気付くんだよ?あの子の愛ってそういうものなんだよ」
「そうだよな……気づいてるよな」
「当たり前じゃん。先生の様子も絶対違うし、今頃泣いてるよ。かわいそうに」
荒木と直、タイプは違うけど何か通じるものがあるんだろうと思う。
お互いに、お互いを理解しているし、気にしている。
「今、子育てで大変そうで、そんな直を見ていたらこれ以上悩ませたくないって思ったけど」
「隠し事する方がダメだよ。何もないんだからこそ、ちゃんと話さないと。それとも、何かあるの?」
ストレートな言葉が胸に刺さる。
「何もない。ただ、強く突き離せないのも確かで」
「それは先生の優しさだから否定しないけどさ。矢沢さんだって、それは理解してくれるって」
俺は一呼吸してから、頷いた。
「そうだな。うん。俺が間違ってるな。話さないと、俺達の関係が狂う。今までもちゃんと話してきたんだから、話すよ」
「遅いけどね。気付いてたとしたら、今頃もう限界が来てる頃じゃない?」
「……」
「そんな困った顔しないでよ。大丈夫だって。あの子、そんなに弱くない」
「荒木…… ごめんな。こんなこと相談して」
荒木は、じゃあコーヒーをもう一杯、と言って笑った。
直と同じように3年間俺を想ってくれた荒木。
荒木だからこそ、わかることがある。
俺は、帰って、ちゃんと直と向き合おうと決意した。