白いジャージリターンズ~先生と私と空~
「ピンチをチャンスに変えるんだよ。俺が知ってる生徒で、腕を骨折した子なんだけどさ。
テニス部だったんだけど右腕骨折したから左で練習してたんだよ。そしたら、治った時にすげーうまく打てて、そこからテニス部のエースになった」
「すごい!!」
「普段使わない利き手じゃない方の手を使うことで、脳も活性化するしな。空の場合、右足だから、左足を鍛えるいいチャンス。あとは、サッカーでは何ができると思う?」
腕組みをした先生が首をかしげる。
授業中よくやる仕草。
「あ、ヘディング?」
「正解!できることってたくさんある」
「高田コーチも、練習に来てもいいって。気晴らしにもなるし、連れていくことにする」
「ああ、友達の練習をじっくり見ることも大事なこと。きっと、空にプラスになるよ」
その夜、空が眠った後に、先生と夜中まで話をした。
長谷川先生のことがあったからか、これからはこういう時間をもっともっと取りたいと思う。
「空、いつの間にかすごい成長してるよな」
「そうだよね。気が付いたら、すごく話せるようになってる」
「直、心配してたもんな。言葉が遅いかなって」
運動面での心配は何もなかったけど、言葉の遅れを気にしていたことがあった。
あれから、サッカーを習い、プレ幼稚園に行くようになって、急に話せる言葉が増えた。
人の気持ちを思いやったりもできるようになったし、社会に出るって大事なことなんだと思った。
「その時その時は、いろいろ不安になったり心配したり、必死だけどな。過ぎてみれば、どうしてあんなに悩んでたんだろうってこともある。今回の骨折も、そうなるから大丈夫だよ」
先生は、昔からいつもそう。
私を不安の渦から救い出してくれる人。
手を引いて、安全な場所へ連れて行ってくれる人。
私は、この人なしではもう生きていけない。
やっぱり、もっと甘えてみよう。
母としてこうありたい、こうならなきゃって、頑張りすぎてたよね。