残念御曹司の恋

今は仕事が楽しいので恋愛はしたくない、と彼には告げてある。

10年前に恋愛には興味ないと言った私の嘘は、未だに継続中だ。

出来ることなら、ずっと側にいたい。

だが、私の願望は、近い将来永遠に叶わぬ夢となるだろう。

28歳。
本人も周りも結婚を意識する年頃だ。
竣本人も、最近縁談を持ち掛けられることが多くなったと言っているように。

だから、私たちの関係の終わりは目前に迫っている。
彼が、自分も周りも納得するような、見た目も性格も家柄も素晴らしい女性に出会う日も近いはずだ。

彼の容姿のことなど気にせず、彼のことを正当に評価してくれる女性が現れるのも、時間の問題だろう。

その日のために、私は準備をしておかなければならない。
彼から離れる準備を。


「来週は忙しくなりそうだから、たぶん無理だな。」

恋人でもない私に対して、彼は律儀にも予定を呟くと、ビジネスバッグを手に部屋を出る。

「じゃあ、またね。」

私は必ずそう返す。
そして、「また」がいつになるのか、あるかどうかさえも分からないことに、毎回少しだけ胸が痛む。

それが、私と彼の関係だ。
< 10 / 155 >

この作品をシェア

pagetop