残念御曹司の恋
「ふざけるな…」

彼の端正な顔がひどく歪んだ。眉間に深く皺を寄せ、私を睨むように見つめている。
その視線に私の体は凍りついて動けなかった。
何が彼を怒らせたのか分からなかった。冗談がすぎたのだろうか。
私が必死に謝罪の言葉を考えていると、彼が再び口を開いた。

「ふざけるな…一生ひとりって、なんだよ！」

苦しそうに発せられた言葉に、呆然とした。

「君にはちゃんと幸せな結婚をしてもらわなきゃ困る。そうじゃないと、俺は一体何のために…」

彼の言葉の意図が正しくつかめないまま、私は息を飲んだ。心臓は止まりそうだ。

「なのに、そんなこと言われたら、決意が鈍るじゃないか。一生一人でいるくらいなら、俺が…なんて考えてしまう。あんなに悩んで、苦しんで、君を諦めたのに。全て台無しだ。」
「私を諦める…どういうこと？」
「どう考えても無理だろう？社長の大切なお嬢さんだ。俺なんかが手を出していい相手じゃない。年齢だって十以上離れてる。ただの秘書の俺が、君を幸せになんてできっこない。そうやって、何度も自分に言い聞かせてきたんだ。」
「そんなこと…」
「だから頼むよ。もしかしたら…なんて、もう考えたくないんだ。あきらめの悪い自分にいい加減うんざりする。一生一人でいる覚悟をするのは、君じゃなくて俺の方だ。」
「ちょっと待って！私のこと、そんな風に思ってくれてるなんて…私、全然知らなくて…」
「ああ、知らないだろうな。君のことが好きだと自覚してから、何年も必死に隠してきたんだ。君からの告白なんて、俺にとっては拷問だった。好きな女を振らなきゃいけない。今もそうだ。そんなことを言い出して、君は俺に一体何を言わせたいんだ？」

彼は一気にまくし立てると、頭を抱えてうなだれた。
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