残念御曹司の恋
初めて見た彼の姿に驚きながらも、彼の告白に私の心は痛いほど高鳴った。
私の恋は独りよがりな片思いではなく、私は彼に愛されていた。
そのことが、私をもう一度奮い立たせる。

私は気づいたときには、うなだれる彼のすぐ前で跪いていた。

「あなたに言わせたいことなら、一つだけあるわ。」

彼の目が勢いよく見開かれる。
私は溢れそうになる涙を堪えて、その彼の目をしっかりと見た。

「もう一度、ちゃんと目を見て、私のこと好きだと言って。」

彼は、諦めたような顔をして、少し投げやりに言葉を発する。

「ああ、好きだ。君が好きだ。…これで満足か?」
「いいえ、全然足りない。私のことが好きなら、このままどこかへ連れ去ってよ。」
「俺の手を取っても、君は幸せになれない。君みたいなお嬢様には育ちの良いどこかの御曹司がお似合いだ。」

彼が再びその眉間に皺を寄せて、私から視線を逸らす。
私はすかさず彼の顎を持ち、自分の方を無理矢理向かせてから、勢いよく言った。

「失礼ね。私は確かに何も出来ない世間知らずな女だけど、自分の幸せくらい自分で決められるわ。」

驚き唖然とする彼に思いっきり笑顔を向けてから、彼の手を取った。

きっと。
幸せは自分の手で掴んで。
逃げていかないように捕まえていなくてはいけないのだ。

彼は五秒ほど静止した後、観念したかのように溜息を一つ吐き出した。
そして、くすくすと笑い出した。

「何が可笑しいの?」
「いや、我ながら情けないなと思ってね。」
「そうね。でも別に気にしないわ。」

彼は今度は無言で微笑むと、握っていた私の手にキスを一つ落として言う。

「では、お嬢様の仰せのままに。」
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