残念御曹司の恋


明け方のうっすらとした光が遮光カーテンの隙間から僅かに漏れる。

ゆっくりと目を開けると、見慣れぬ部屋の風景が広がっていた。
風景と言っても、ベッドを置いたら他には何も置けないような小さな寝室で、壁に備え付けのクローゼットと小さめの窓以外に目に入るものはない。

ぼんやりと昨夜のことを思い出す。

彼に手を引かれてたどり着いたのは彼のマンションだった。
玄関に入るなり彼に抱きしめられたかと思えば、生まれて初めてのキスをして。
呼吸すら忘れるくらい夢中になって、すぐ横の寝室に入ると、そのままベッドになだれ込んだ。
思えば、一度私の気持ちを受け入れた後の彼の行動には、一切の迷いが無かった。
立ち止まったら、お互いの覚悟が鈍ってしまうのを恐れたのか。
少しの考える隙もないくらいの早さで、私たちは結ばれた。

彼に抱かれながら、まるで夢を見ているようだと思った。

そして、目覚めた瞬間も、ひょっとしたら夢だったのかもと一瞬疑った。

でも。
自分が見慣れぬ寝室の、いつもと違う感触のベッドに横たわっていて。
掛けられたシーツの下は何ひとつ身につけておらず。
寝返りを打てば、静かに目を閉じる、恋いこがれた彼の寝顔があった。

これは夢ではないのだ。
そう実感すれば、思わず口元が緩んでしまう。
それは、きっと私が長年作り続けてきた、嘘くさい笑顔なんかじゃなくて。

彼が見つけた本当の私の顔だ。
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