残念御曹司の恋
うっとりするように彼の寝顔を見つめていると、突然彼の目がぱちりと開いた。

「おはようございます。」

目覚めた早々はっきりと話す彼の寝起きの良さに目を丸くしていると、くすくすと笑われた。

「寝起きじゃありませんよ。ずっと起きてました。」

そう悪戯っぽく笑う彼は、なるほど、寝起きには似つかわしくない、やたらに高いテンションだった。

「というか、ドキドキして寝れませんでした。」
「え?ずっと。」
「ええ、ずっと。あと、寝て起きたら、全て夢だったらどうしようと思って。怖くて寝られませんでした。」

相変わらず言葉は折り目正しい敬語を話しているが、内容は無茶苦茶である。
年齢も十歳以上離れていて、普段はすごく大人に感じる彼とはまるで違う。
どことなく、浮き足立っているような感じ。
でも、そんな彼を見ても幻滅するどころか、新しい一面を発見したようで、とにかく嬉しかった。
夢じゃなかったかと疑っていたこと、そして、互いに夢にはしたくなかったことが分かって、私はまた幸せな気持ちになる。

気持ちが通じることは、こんなにも幸せで満ち足りた気分になるのかと、改めて感心したくらいだ。

「正直な話、この後の展開に緊張して、眠れなかったというのも、少しだけありますけどね。」

少しおどけながらも、彼の目は真剣だった。
< 110 / 155 >

この作品をシェア

pagetop