残念御曹司の恋
「朝になったら、送っていきます。」

彼はそう言いながら、私の手を握ってきた。

「社長には、俺から話すよ。」

急に彼の口調が変わる。
それは、彼の中での決意の表れだろうか。

「いや、私から…」
「駄目だよ。社長には随分お世話になった。恩を仇で返すんだから、それなりに覚悟はしてる。」
「そんな…」
「もし許してもらえなくても、君のことは諦めない。君のことを路頭に迷わせることだけはしないから、俺にちゃんと付いてきて欲しい。」

今時、まさか駆け落ちするような事態にはならないと思うが、彼は真剣にもしもの場合を考えているようだ。

その真剣さが嬉しくて、私はまた思わず微笑んでしまう。

「もちろんよ。…でも、やっぱり話すなら一緒に話しましょう。二人で決めたことなら、二人で報告すべきだわ。覚悟を決めるのも、怒られるのも二人一緒よ。」

私がそう告げると、彼は仕方ないなという表情で頷いた。

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