残念御曹司の恋
「でも、きっと、あなたは大丈夫よ。怒られるのはたぶん、私だから。」
「へ?」

私の自信めいた物言いに、彼は思わず間抜けな声を上げて首を傾げる。

「私ね、あなたに告白する前に父に言ったの。あなたが好きだって。そしたら、何て言ったと思う?」

思い出す度に吹き出してしまうような父の発言。
それを伝えれば、少しは彼も安眠できるだろうか。

「そりゃ、大事な娘を俺なんかにはやれないだろう。」
「ううん、その逆よ。」

彼が真面目な顔で答えた言葉をすぐに遮る。

「川合は俺の大事な秘書だから、お前のような世間知らずの何にもできない奴と結婚させる訳にはいかない、ですって。」
「…なっ!」
「全く誰がこんな女に育てたのって話よね。わらっちゃうわ。」

驚愕する彼に、私は再び微笑みかける。

「だから、大丈夫。あなたは、父の言いつけを守って、お見合いを見張ってたら、お見合いに失敗しちゃった私に押し切られちゃったことにすれば。」
「いや、それは…」

私の提案に対して彼は数秒口ごもった後、覚悟を決めたように話し始めた。

「違うんだ。昨日は社長から頼まれた訳じゃなくて、君のお見合いの話が進んでると聞いて、居てもたってもいられなくて、ホテルまで様子を見に行っただけで…」

恥ずかしかったのか、最後の方は消え入りそうな声の呟きに変わっていた。

そんな彼が愛おしくて、私は大胆にも彼の首に手を回して抱きついた。
彼が驚いた表情をしながらも、かすかに笑って言う。

「だから、もし君のお見合いがうまく進んでいたら、俺はあの場で君を奪い去るという選択をしたかもしれない。」

彼も私の背中に手を回す。
しばらく抱き合った後、二人で笑い合った。


「一緒に、社長に怒られに行こうか。」

彼が耳元で呟いた提案に、私は勢いよく頷いた。
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