残念御曹司の恋
豪華なシャンデリアに、金屏風。
昔ながらの祝賀パーティーの雰囲気に、どこか懐かしさすら覚える。
今日は、経済界の重鎮の叙勲祝賀会で、うちの父がまだまだヒヨッコと呼ばれてしまうような、大物ばかりが揃うパーティーだ。
なぜ、そんな恐れ多い会に、母でもなく、後継者である兄でもなく、父は私を同伴したのかというと。
他でもない、私の婚約を周囲に報告するためである。
そして、父の隣に、出過ぎず消えすぎず、絶妙な存在感でたたずんでいるのは、秘書兼私の婚約者である川合大輔で。
あの後、勘当あるいは解雇、さらには駆け落ちまで覚悟して、父に頭を下げた私たちに、父は拍子抜けするくらい、あっさりと結婚を許可した。
父が出した条件は一つだけ。
彼が矢島家に婿養子に入ることだけだった。
彼にも、彼のご両親にも快く承諾していただいて、晴れて私は彼の婚約者となった。
父が結婚を許した理由は、要するに跡継ぎを確保するためで。
独身生活を謳歌し、一向に結婚する気のなさそうな私の兄に危機感を抱いて、父はおそらく保険を掛ける気になったのだろう。
しかも、自分が目を掛けて可愛がってきた秘書なら、息子にするには申し分ない。
我が父ながら、本当に計算高い男だと思う。
一方で、転んでもタダでは起きないくらいの気持ちがなければ、商社のトップなど務まらないのかもしれない。
「娘がこのたび結婚することになりまして。いやぁ、娘に好きな人と一緒になりたいと言われたら、許さない訳にはいきませんで。」
先ほどから何だか随分と物わかりのいい父親になりきっている父の横で、彼が微笑んでいる。
私と彼のことを好き勝手紹介する父の横で、私は笑顔で挨拶をした。
今日も愛想笑いではなく、本物の笑顔だ。
一通り挨拶を終えると、乾いた喉を潤すため飲み物を取りに行く。
オレンジジュースを受け取って戻る途中、背後から思わぬ人に声を掛けられた。
「お久しぶりです、矢島さん。」