残念御曹司の恋
振り返ると、そこには熊澤さんが立っていた。
あの日以来数ヶ月ぶりに顔を合わせた彼の横には、和服を着た女性の姿があった。
ぱっと見たところ、私より年上だとは思うが、全体的に小柄なとてもかわいらしい人だ。
熊澤さんは、にこにこ笑いながら隣に立つ女性を紹介する。
「妻の、司紗です。」
そう紹介された女性は私の姿を見ると、少し驚いた顔を一瞬見せた後、すぐに微笑んだ。
「初めまして。熊澤司紗です。」
「こちら、矢島物産の社長のお嬢さんで、実咲さんだ。」
「はじめまして、矢島実咲です。」
簡単に名前だけの自己紹介をする。
彼女は、先ほど一瞬見せた動揺などなかったかのように、にこやかに微笑んでいた。
少し気が強そうにも見えるが、その凛とした表情からは、しっかりとした大人の女性であることがうかがえる。
おそらく、この人が。
あの時話していた女性だったのだろう。
もう結婚してるなんて、なんて早業。
瞬時に心の中で色々推測しながらも、あえて確認する事はなかった。
数ヶ月前とはいえ、お見合いの席で顔を合わせたことは、わざわざ彼女に知らせなくてもよいことだ。
私はにっこりと微笑むと、熊澤さんに向けてお祝いの言葉を告げた。
「ご結婚おめでとうございます。とても素敵な奥様ですね。すごくお似合いです。」
お世辞ではない。彼の隣には彼女以外には考えられないくらい、しっくりとはまっている。
「ありがとうございます。…諦めなくて、本当によかったです。」
そう答えると、熊澤さんは少し照れたように笑った。
隣で司紗さんも同じように笑っている。
本当にどこまでもお似合いの夫婦だ。
「ふふふ、よかったです。」
「矢島さんもご婚約されたとか…」
たまたま耳に入ったのか、そう聞き返される。
「ええ、私も実は…」
「長年の思いが実ったんですね。」
「えっ?どうしてそれを…」
「顔に書いてあります。」
慌てて顔に手を当てれば、くすくす笑われた。
「嘘です。でも、とてもいい表情をされてるから、もしかしてと思って。」
「鎌をかけたんですね。」
やられたと思ったその時、不意に名前を呼ばれた。
「実咲。」
声のする方を向けば愛おしい婚約者の姿がある。
なかなか戻らない私を捜しに来たのだろう。
「ちょうどよかった。お二人にも紹介します。」
大輔は瞬時に察したのか、軽く会釈して私の隣にぴったり並んだ。
我々もちゃんとお似合いの二人に見えるだろうか。
頭を一抹の不安が過ぎるが、彼の隣に立てば自然と笑顔が漏れる。
だから、きっと大丈夫。
彼の隣なら、いつでも、どこでも幸せで居られる自信があるの。
【無気力令嬢の恋 完】
あの日以来数ヶ月ぶりに顔を合わせた彼の横には、和服を着た女性の姿があった。
ぱっと見たところ、私より年上だとは思うが、全体的に小柄なとてもかわいらしい人だ。
熊澤さんは、にこにこ笑いながら隣に立つ女性を紹介する。
「妻の、司紗です。」
そう紹介された女性は私の姿を見ると、少し驚いた顔を一瞬見せた後、すぐに微笑んだ。
「初めまして。熊澤司紗です。」
「こちら、矢島物産の社長のお嬢さんで、実咲さんだ。」
「はじめまして、矢島実咲です。」
簡単に名前だけの自己紹介をする。
彼女は、先ほど一瞬見せた動揺などなかったかのように、にこやかに微笑んでいた。
少し気が強そうにも見えるが、その凛とした表情からは、しっかりとした大人の女性であることがうかがえる。
おそらく、この人が。
あの時話していた女性だったのだろう。
もう結婚してるなんて、なんて早業。
瞬時に心の中で色々推測しながらも、あえて確認する事はなかった。
数ヶ月前とはいえ、お見合いの席で顔を合わせたことは、わざわざ彼女に知らせなくてもよいことだ。
私はにっこりと微笑むと、熊澤さんに向けてお祝いの言葉を告げた。
「ご結婚おめでとうございます。とても素敵な奥様ですね。すごくお似合いです。」
お世辞ではない。彼の隣には彼女以外には考えられないくらい、しっくりとはまっている。
「ありがとうございます。…諦めなくて、本当によかったです。」
そう答えると、熊澤さんは少し照れたように笑った。
隣で司紗さんも同じように笑っている。
本当にどこまでもお似合いの夫婦だ。
「ふふふ、よかったです。」
「矢島さんもご婚約されたとか…」
たまたま耳に入ったのか、そう聞き返される。
「ええ、私も実は…」
「長年の思いが実ったんですね。」
「えっ?どうしてそれを…」
「顔に書いてあります。」
慌てて顔に手を当てれば、くすくす笑われた。
「嘘です。でも、とてもいい表情をされてるから、もしかしてと思って。」
「鎌をかけたんですね。」
やられたと思ったその時、不意に名前を呼ばれた。
「実咲。」
声のする方を向けば愛おしい婚約者の姿がある。
なかなか戻らない私を捜しに来たのだろう。
「ちょうどよかった。お二人にも紹介します。」
大輔は瞬時に察したのか、軽く会釈して私の隣にぴったり並んだ。
我々もちゃんとお似合いの二人に見えるだろうか。
頭を一抹の不安が過ぎるが、彼の隣に立てば自然と笑顔が漏れる。
だから、きっと大丈夫。
彼の隣なら、いつでも、どこでも幸せで居られる自信があるの。
【無気力令嬢の恋 完】