残念御曹司の恋
「ええ、その日が来たらね。」

私は、出来るだけ明るく言った。
妹にすこしでも心配を掛けないように。

「本当に?」

疑り深い妹は、私の顔をまじまじと見つめてくる。

「本当よ。」
「やっぱり、それでもお姉ちゃんの気持ちは伝えないの?」

せめてちゃんと気持ちを伝えた方がいいと、紫里はいつも言う。
でも、私はそんなつもりはない。

「ええ、もちろん。」
「大丈夫なの?」
「大丈夫よ。最初からそのつもりだもの。」

最後は自分に言い聞かせるように言った。
私は何があっても竣には本当のことを言わないと決めている。

それが、私の中のルールだ。
この関係を続けているのは、私の勝手で、竣に不必要な重荷を背負わせてはいけない。

「心配かけてごめんね。その日が来るまでは、このままで居たいの。」

明確な意志を持って告げれば、妹はまだ納得していないような顔をしつつも、軽く頷いた。
「渋々、了承」と顔に書いてあるようだ。

私はその顔が可笑しくて、自然と笑いが漏れる。

「ふふっ…」
「ちょっと、真面目に心配してるんですけど?」

その後、妹に盛大に怒られたことは言うまでもない。
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