残念御曹司の恋
押しが強いとよく言われるが、それが実は自分の弱さの裏返しであることには、自分でも気が付いている。
常に強気でいないと、不安なのだ。
だから、仕事でも客には常に強気で押しまくる。
すごく前向きにも見えるが、本当は隙を見せるのが怖いだけだ。

困ったことに、俺は恋人に対しても同じだった。
単に格好付けたいということもあるが、弱い自分を見せて幻滅されたくないという思いから、いつも本音は言えずにいる。
誰かとつき合っている期間でも、密かにこの店に通って、愚痴や悩みを吐き出している。
そんなうわべだけの関係が長く続くはずもなく、俺の恋愛はいつも短命だ。

「だから、私とつき合えばいいのよ。」

現状で、唯一俺の愚痴を聞いている女は堂々と言う。
その瞳はまっすぐ俺の方を見つめているのが分かる。
だけど、俺はわざと視線を合わせない。

見つめ合ってしまえば、自分が簡単に頷いてしまいそうで。

何故だか分からないけど、怖かった。

やがて、彼女の手元にグラスが差し出される。

「僕から見れば、君たちはお似合いだよ。」

そのグラスを黄色く輝く液体で満たしたばかりの男が呟いた。
彼女がまた美しい仕草でグラスを傾ける。

「勝手に言ってろ。」

俺の口からようやく出たのは、何とも弱々しい抵抗だった。
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