残念御曹司の恋
いつものように、仕事の用件で併設する地方銀行のローン相談窓口に向かう。
提携のローン金利が他行に比べて格段に良いため、最近うちの顧客は大半がこの銀行でローンを組む。
用件を頼むのは、だいたい片桐司紗と入れ替わりで入った行員だが、今日は窓口にその姿がなかったため、主任の三枝路子に声を掛けた。
仕事の用件を伝えて帰ろうとすると、三枝主任に呼び止められた。
「谷口さん、この前なんだけど…」
「はい。」
「片桐さんの披露宴に行ってきて、写真撮ってきたから、見る?」
彼女に失恋した俺にその写真を見せようという彼女に対しては「お節介」の一言だが、単純に興味が湧いたのは事実だ。
きっと、彼女について未練があるというよりは、むしろ振られたことによる自信喪失の方が俺にダメージを与えているに過ぎず、彼女の花嫁姿を純粋に見たいと思うに至ったのだろうと思う。
だから、俺は正直に答えた。
「それは、ぜひ。見たいです。」
じゃあ、と言って手招きされて、打ち合わせブースに移動する。
おそらくそこは、上役からも見えない位置なのだろう。
彼女はデスクからこっそりと取り出した薄っぺらいアルバムのようなものを手にしていた。
開いて見れば、半年前までほぼ毎日のように見ていた笑顔がそこにあった。
純白のウェディングドレス姿で微笑む彼女は美しく、そして何より幸せそうだった。