残念御曹司の恋
ホテルのロビーは休みの日のせいか、いつもより混雑していた。

その片隅で、帰り際にお手洗いへ行きたいと言い出した紫里を待つ。

振り袖やきらびやかなワンピース姿で、大きな紙袋を持っている女の子の集団が目の前を通り過ぎて、ああ、今日は確か大安だったな、と思い出す。
ホテルのバンケットルームも今日は結婚式の予定でいっぱいなのだろう。
私も友達の結婚式で訪れたことがあるそこは、高級ホテルらしい、豪華でいて嫌みのないスタイリッシュな空間だった。
この歳になれば、当然結婚式に招待されることも多くなる。
幸せそうな友達の姿を見て、羨ましいという気持ちが湧いてこない訳でもない。

できれば、結婚だってしたい。
私も人並みに結婚願望はある。

だけど、私が愛しているのは「彼」なのだから仕方ない。
思えば、もう随分と前からいろんなことを諦めている自分に気付く。

恋人みたいに手をつないで歩くことも。
記念日や誕生日を祝ってもらうことも。
家族や友達に彼氏を紹介することも。

全てを諦めてでも、束の間の愛おしい人との時間は手放せない。

どれだけ、馬鹿なんだろう。

ふと、自嘲ぎみに笑って顔を上げたとき、目に飛び込んできたのは、私には衝撃的な光景だった。

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