残念御曹司の恋
我慢の限界だった。
いつもと違って妖艶に微笑む彼女の唇を、やや乱暴に塞いだ。
生まれて初めてしたキスは、夢中になりすぎて何一つ覚えていない。
柔らかい唇の感触も、唇の隙間から漏れる艶めかしい息も。
そこに存在していたであろうものを思うと、いまだに損した気分になる。

唇を離すと、意外にも真剣な顔の司紗が居た。
それをゴーサインだと受け止めて、本能のまま彼女を押し倒した。


「片桐、もう少し力抜いて。」
「うん。熊澤君、お願い。…名前で呼んで。」

いよいよひとつに繋がろうという時になって、彼女が恥ずかしそうに口にした、お願いの威力は相当なもので。
押さえきれない欲望に任せて、限界まで張りつめていたものを、一気に彼女の中に押し込んだ。

「やっ!…あっ…」

苦しそうに顔を歪める彼女の手をしっかりと握って、額に一つキスを落とす。

「…司紗、大丈夫?」
「竣…大丈夫だから、続けて?」

躊躇しながらも、ゆっくりと腰を動かした。

「竣…あっ…しゅ、ん…」

繰り返し名前を呼ばれる度に、胸が高鳴って。
次第に荒くなっていく彼女の息づかいに翻弄されて。
気付けば行為に夢中になっていた。

最後は、彼女を力一杯抱きしめた。
このまま、彼女を離したくない。
満ち足りた心に、更なる欲求が生まれる。
それを体現するように、彼女を抱く腕にさらに力を込めた。
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