残念御曹司の恋
その長く続いた関係が終わりを告げたのは、俺にしてみれば突然だった。

久々に時間が取れた金曜の夜、司紗と軽く食事を済ましてから、ホテルへ向かう。

いつもと同じように。
今まで繰り返してきたことと、何ら変わったことはなかった。

ただいつもと少しだけ違ったのは、俺の中に芽生えた小さな冒険心で。

最近、断りきれずに仕方なく受けた見合いの話をして、司紗がどんな反応をするか試してみたくなった。

相手の女性は美人で、教養も、家柄も申し分ない相手だった。
そして、俺を一目見ても、全くがっかりした顔一つ見せなかった。

そのことを、俺はベッドに入りながら、司紗に話した。

少しくらい妬いてくれるだろうか。
一瞬でも司紗の顔が曇らないだろうか。

そんな風に、注意深く司紗の表情を観察していた俺に、司紗は俺の期待とは正反対の表情で告げたのだ。

「じゃあ、もう、今日で最後ね。」

にっこり笑った司紗の顔を見て、冷や汗が俺の背中を伝った。

いや、違うんだ、そうじゃない。
あわてて否定しようとした、その時。
司紗の口から、追い打ちを掛けるような決定的な言葉が出る。

「ちょうどよかった。春からアメリカに行くの。」

彼女は仕事に熱中するあまり、恋愛なんてしたくないと言い張るほどだ。
最高に輝く笑顔で告げられた彼女の言葉を、俺はただ受け入れて、小さな声で祝福を述べるしかなかった。

こうなることは、だいぶ前から分かっていたはずなのに。
俺は激しく動揺していた。

俺はその日、その動揺をひた隠しにして、出来る限りいつも通りに彼女を抱いた。

彼女が俺に求めるものが、別れ以外にないのなら、出来るだけ、わだかまりがないように彼女を見送ろう。

愛してる。

ベッドの中で何度も口から出そうになった言葉を、俺は永遠に封印することに決めた。

世界で一番大切な君のために。
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