残念御曹司の恋

商品企画部のオフィスに入ったところで、奥に座る男性が俺に気が付いて歩み寄ってきた。

「熊澤様。ご無沙汰しております。」

それは、前に何度か仕事の関係で会ったことが会る人物で、もらった名刺を見ると今は司紗の上司のようだった。

「今日はどうされましたか。」

仕事の用件だと思って尋ねる相手に、申し訳ないといった顔を浮かべて、小さめの声で聞いた。

「片桐さんは、いらっしゃいますか?」
「…片桐、ですか?」

相手が戸惑いの表情を見せる。
当たり前だろう。

「ええ。実は、高校の同級生なんです。たまたまこちらにお邪魔したので、久しぶりに会いにきたのですが。」

そう告げると、相手は納得したような顔をしたが、それと同時に眉をひそめて申し訳なさそうな表情を見せた。

先ほどから、オフィスを見渡しても、司紗らしき姿は見あたらない。外出中なのだろうか。

残念だが、席を外しているなら仕方がない。
そう思っていると、目の前の相手が再び口を開く。

そして、その口から飛び出したのは、全く想像もしていなかったような言葉だった。



「片桐は…二週間前に退職しました。」
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