残念御曹司の恋
「何か心配事でもおありですか?」
縁談の相手と食事中も上の空だった。
声を掛けられて初めて、自分が食事に手をつけていないことに気が付いた。
「いえ、すみません。」
俺は張り付けたような笑顔を向ける。
相手はそんな俺に優しく微笑むと、箸を置いて話し始めた。
「私も、そんな風だったのかしら。」
ぽつりとこぼされた一言の意味が掴めず、思わず聞き返してしまった。
「そんな風?」
「ええ、心ここにあらず。しかも、考えているのは他の女性のこと。」
「えっ?」
見事に言い当てられて、多分俺はあからさまに狼狽えているのだろう。
そんな姿がよほど面白かったのか、向かいに座る彼女はくすくすと笑い始めた。
「やだ、当たっちゃった。こんな社会経験もほとんどないような小娘に簡単に見破られてたらダメですよ。」
「すみません。」
「謝らなくてもいいです。ただ、ここから先は腹を割ってお話しましょう。」
「と、いいますと?」
「さっき考えてたこと、よかったら話してください。社会常識はなくても、女心は分かるつもりです。」
そう言って彼女は微笑んだ。
少しだけ好奇に満ちた瞳で。