残念御曹司の恋
姉はそれ以外のことは、器用に何でも出来てしまうくせに、恋愛に関してだけはひどく不器用だった。

対して、私はそれ以外のことは何一つモノに出来ないのに、恋愛だけはいつも順調だった。

姉は料理もなかなかの腕前だが、それを食べさせるような恋人がいなかったし。
私には絶えず恋人がいたが、餃子と唐揚げの無限ループしか提供できない。

ちなみに、そんな私に恋愛小説を書いてみたらどうかと勧めたのは、他でもない姉である。
「その才能を生かせる仕事を見つけた」とか何とか言って私をその気にさせてしまった。

だから、恋愛は私が姉に唯一アドバイス出来る分野で。
出来ることなら、姉のただただ長く、複雑な恋も実らせてあげたかった。



それなのに。

姉は、自ら手放した。

十年も自分の胸に秘めていた恋を。



正確には。

賢い姉は逃げ出したのだ。

十年も居続けた、居心地は抜群だけど、明日には崩れ去るかもしれない、極めて不安定な場所から。


その賢さこそが、姉の長所であり、短所なのだと思う。
恋愛において、人は賢くある必要なんてないのだから。
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