残念御曹司の恋
私がその男に会ったのは、姉が旅立ってから2ヶ月後のことだった。

コンビニのバイト帰り、玄関のドアを開けると、目の前には一目で高級だと分かるスーツの背中があった。
そういえば、自宅の近くに不自然に停車するタクシーがあったことを思い出す。

男は振り返ると、私に微笑んで軽く会釈をした。
年齢は20代後半くらい、中肉中背の体型に、日本人にありがちなあっさりとした顔立ち。
でも、その雰囲気はどこか上品で、立ち姿には風格すらあった。

すぐに、ぴんときた。
この男が誰なのか。

おそらく、姉が長年愛していた男。
そして、今もまだ愛している男なのだろうと。

「ただいま。」
「おかえり。」

私は、男に軽く会釈を返すと、母に帰宅の挨拶をして、男の横を素通りした。

リビングに入ると、ドアの前で会話に耳を傾ける。
盗み聞きは褒められたことではないが、どうしても気になった。

男が何をしに来たのか分からない。
姉との関係を絶ち、違う女と結婚するという男が、今更姉に何の用があるというのだろう。
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