残念御曹司の恋
「誰にも連絡先は教えないように言われているので、お引き取りいただけませんか?」
母は、申し訳なさそうに話していた。
姉が突然、仕事を辞めて家を出ると言い出した時、父と母は大層驚いた。
でも、理由を尋ねても「少し疲れちゃって」と力なく笑う姉を、「好きにしなさい」と笑顔で送り出した。
これは、長年に渡って姉が優等生として築いてきた信用が物を言ったのだと思う。
『誰にも連絡先を教えないで。必要なら私から連絡するから。』
そう言い残した姉の意志を、母もしっかり守っているのだ。
「お願いします。お嬢さんにどうしても伝えたいことがあるんです。」
男は尚も食い下がった。
「あの子にもう一度、ちゃんと連絡するように伝えますから…」
それを聞いたとき、この男が訪ねてくるのはこれが初めてではないのだと知った。
おそらく、母は姉にきちんと伝えているはずだが、姉には連絡する気がないのだろう。
「ずっと連絡がなくて…。お願いします。一度だけでいいんです。」
「………。」
男の懇願に、母は黙った。
ひょっとしたら、迷っているのかも知れない。
姉の突然の行動の本当の理由を知っているのは、姉本人と姉からすべてを打ち明けられた私だけだ。
母もまさか、目の前に立っている男が原因だとは思いもしないだろう。
母は、申し訳なさそうに話していた。
姉が突然、仕事を辞めて家を出ると言い出した時、父と母は大層驚いた。
でも、理由を尋ねても「少し疲れちゃって」と力なく笑う姉を、「好きにしなさい」と笑顔で送り出した。
これは、長年に渡って姉が優等生として築いてきた信用が物を言ったのだと思う。
『誰にも連絡先を教えないで。必要なら私から連絡するから。』
そう言い残した姉の意志を、母もしっかり守っているのだ。
「お願いします。お嬢さんにどうしても伝えたいことがあるんです。」
男は尚も食い下がった。
「あの子にもう一度、ちゃんと連絡するように伝えますから…」
それを聞いたとき、この男が訪ねてくるのはこれが初めてではないのだと知った。
おそらく、母は姉にきちんと伝えているはずだが、姉には連絡する気がないのだろう。
「ずっと連絡がなくて…。お願いします。一度だけでいいんです。」
「………。」
男の懇願に、母は黙った。
ひょっとしたら、迷っているのかも知れない。
姉の突然の行動の本当の理由を知っているのは、姉本人と姉からすべてを打ち明けられた私だけだ。
母もまさか、目の前に立っている男が原因だとは思いもしないだろう。