残念御曹司の恋

「ハイハイ。もう、わかったから。」

いつものように、私は話を切り上げる。

本当は彼を思いっきり抱きしめて言ってあげたい。
あなたは、全然残念なんかじゃないと。

でも、そのかわりに私はベッドの中、彼の横に滑り込む。

「とりあえず、……する?」

上目遣いで聞いてみれば、彼はぶすっとした顔を崩さないまま答えた。

「………する。」

そのまま、私をシーツの中で組み敷く。

「ふふっ…」

拗ねたままの彼が可愛くて軽く笑った私の唇に、可愛げなく吸い付くようなキスをする。

私を見下ろす瞳は、お世辞にも大きいとは言えない。
私を抱き寄せる体も、中肉中背どころか、近頃の不摂生によりややぽっちゃりしている。

彼が残念御曹司と呼ばれるのは、その冴えない容姿ゆえのことだが。
その丸く小さな瞳に見つめられるだけで、私の体中の熱は確実に上昇し。
少し体温が高いその腕の中は、この世のどんな場所よりも安心できる。


とは言っても、私、片桐司紗(かたぎりつかさ)と彼は恋人同士ではない。
月に数回会って体を重ねるだけの関係だ。

御曹司の彼と、銀行に勤める庶民の私とでは住む世界が違うことは、よく理解しているし。
彼が私に対して特別な好意を抱いていないことも知っている。

もちろん、友達としては好かれていると思うのだけれど。
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