残念御曹司の恋

一瞬にして修司の表情が変わる。

「へ?お姉ちゃんの?」
「そう!私は、お姉ちゃんの好みを教えに来ただけ!この人は、お姉ちゃんの相手!」

修司はすっかり肩の力が抜けて、ぽかんとしていた。

「マジで?」
「もちろん、マジ!」

状況が飲み込めたのか、慌てて姿勢を正すと、先ほどまで詰め寄っていた相手に頭を下げる。

「す、すみません。つい、誤解してしまって…。」

恥ずかしいのか、わかりやすく動揺して、耳まで赤く染まっている。
そんな修司に、熊澤さんは余裕の笑みを向ける。

「いえ、誤解させるような行動を取ってしまったのは、私の方ですから。」

「ほんとに、すみません!」

再び下げた頭を上げるように言われて、修司はやっと姿勢を正した。

「初めまして。私、佐山修司と申します。よろしくお願いします。」

何故か仕事の挨拶みたいになっているのは、相手のただ者ならぬオーラのせいかもしれない。

「こちらこそ、よろしく御願いします。熊澤竣です。」

改めて自己紹介をすると、熊澤さんは私の方を向いて言った。

「これくらい真っ直ぐだったら、多分すれ違ったりしないんだろうな。」

「そうですね。たまに、分かりやすすぎますけど。」

私は、隣できょとんとしている恋人を見ながら微笑む。

「俺も見習って、頑張ってくるよ。」

彼はそう言って、ファミレスで渡した姉の連絡先と職場が書かれたメモを掲げた。

「健闘を祈ります。」

「ありがとう。」

そして、再び修司の方を向くと、「あ、そうそう。」と何かを彼にそっと耳打ちした。

「じゃあ、ここで失礼するよ」と、颯爽と銀座の街を歩いていく姿を、修司と二人見送った。
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