残念御曹司の恋
それまで勤めていた銀行を辞め、東京を出てから、もうすぐ二カ月が経つ。

初めての一人暮らし。
知らない土地で始めた新しい生活。

仕事は東京を離れる前に見つけた。
住宅展示場に併設された地方銀行のローン窓口。
半年ごとの契約だが、銀行勤めで色々と資格を取っていたことが助けになった。

元々、銀行の仕事は好きだったし、支店の窓口から本店に異動になった時に、本当は窓口業務に未練があった。

お給料はもちろん以前よりは少ないが、仕事の内容にも満足しているし、職場の人間関係も良好で居心地はいい。


彼から離れるため。
長く引きずった恋を忘れるため。

この生活を始めた理由はものすごく後ろ向きでも、今置かれている状況は思っていたより悪くない。


「また来たわよ。」

主任にそっと耳打ちされて、作業の手を止めた。
主任の視線の先には、入口から入ってくる見慣れたスーツ姿の男。
私の視線に気づくと、軽く微笑んで手を振った。

新しい生活は順調だ。
少しだけ困ったことがあるのは確かだけど。
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