残念御曹司の恋
谷口さんは住宅メーカーの営業マンで、外回りの時以外は、この住宅展示場に常駐している。
彼の会社ともローン提携をしているので、お客様を紹介してもらったりと、顔を合わせる機会も多い。
まあ、今日くらいの案件ならば、正直、電話とメールで十分なのだが。
「わざわざ来なくてもいいのにねぇ。」
窓口に戻って書類作成をしていると、隣の席から主任に声を掛けられる。
今、まさに私が心の中で思っていたことだったが、とりあえずフォローする。
「まあ、近いですから。」
「彼のモデルハウス、ここの反対側の一番端だから歩くと10分近くかかるわよ。」
「…たまたま用事があったついでとか
?」
「ほぼ毎日漏れなく?」
「…健康の為に歩きたいんですかね。」
「それ、マジで言ってる?」
「…言ってません。」
会話の最後は二人目を見合わせて、苦笑した。
「まあ、こうもあからさまだとね。」
主任は呆れたように呟く。
決して私を咎めるわけではない。むしろ、その視線は哀れみの方が強い。
「はあ、そうですね…。」
私は、気を緩めて小さくため息をついた。