残念御曹司の恋
次の瞬間、彼が取った行動は、私の頭を混乱させて、涙をを止めるのには、十分だった。

性急に手首を捕まれて、引き寄せられる。力に逆らえず、私の頭が着地したのは彼の胸板だった。
背中に回った腕が、私の体を強く抱きしめた。

「両思いなのにずっと気付かないなんて、残念すぎるだろ。」

「へ?」

あまりに意外な言葉に、つい間抜けな声が漏れた。
彼は、「はぁ~」とため息を付きながら、私を抱く腕の力を強めた。

「俺もさ、初めてしゃべった時から、ずっと司紗のこと好きなんだけど。」

彼の口から告げられる衝撃の事実に驚きすぎて、思わず彼を見上げて声を上げた。

「うそ?!」

「この期に及んで、嘘なんてつくか。ああ、もう、何だったんだよ、この10年。」

「でも、たとえ両思いでも、私なんかが一緒に居ちゃいけないでしょ。俊にはもっと、ふさわしい人が…ほら、お見合いの…」

「見合いは断った。だいたい、身分がどうのとか、それ、いつの時代の話だよ。仮に誰かに何か言われたとしても、関係ないよ。俺は司紗がいい。」

竣が、あまりにあっけらかんと言うので、私の涙はすっかり引っ込んで、代わりに笑いがこみ上げてくる。

「はは、私、何悩んでたんだろう。」

すっかり、悲壮なムードは消えて、二人でくすくす笑い合った。
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