残念御曹司の恋
私はちゃんと涙を拭ってから、もう一度、彼に向き合う。
「ずっと好きだったの。」
その言葉を口にすれば、自然と笑みがこぼれた。
「好きだから、抱かれたの。初めての時も、それからもずっと。」
真実を告げる度に、心は嘘のように軽くなっていく。
「よかった。あんな風に司紗の‘’初めて‘’もらったの、実はずっと後ろめたかったから。」
竣が照れたように笑う。
彼も嬉しいのだと思うと、私の嬉しさも増すようだ。
「少しでも一緒に居られるなら、どんな関係でもいいと思ってた。たとえ未来なんてなくても。」
「俺も、本当の気持ち伝えたら司紗が離れていくと思ってた。道理で長く続くはずだよな。俺たち、全く同じこと考えてたんだから。」
お互いがお互いの嘘に囚われて、本当の気持ちを隠し通してきた10年。
未来なんて無くても構わないと本気で思っていた。
別れを選んで、離れた土地で暮らす日々。
彼をひっそりと思うだけの人生でも十分に幸せだと思っていた。
だけど、そんなのは所詮綺麗事で、自分が傷付きたくないための言い訳だったと、今なら分かる。
だって、今の私は。
目の前のあなたをこんなにも求めているから。
「告白してしまえば、たった5分で変わるのね。」
私は、とにかく笑った。
今までの自分を臆病者だと笑い飛ばしたかった。
長いお付き合いだった嘘とは、今日でお別れだ。
手を伸ばせば、愛おしい人に手が届く。
これこそが、私の欲しかった幸せで。
叶えたかった未来だ。
必要なのは、愛の告白だけ。
「竣、愛してる。」
彼の腕の中で、そっと囁いて目を閉じた。