残念御曹司の恋

朝、早く目覚めた方が先にシャワーを浴びる。
これは、私と竣のルールだ。

そして、目覚めた後には私たちの間に甘い空気は発生することはない。
私と彼は、完全にただの友人になる。

特に話し合って決めた訳ではないけれど、いつもそうやって切り替えていた。
それを上手く出来ていたからこそ、竣は長年この関係を続けているのかもしれない。

なぜなら、彼は多忙な男である。
だらだらと女のご機嫌を取っている時間があれば、仕事をしたいはずだ。

土曜日の今日、私は休みだが、竣は仕事を片付けるために出勤することが多い。
そのため、だいたい目覚めるのは竣が先で、私が後だ。
今朝に関しては、昨日いつもより少しだけ執拗に求められたのも原因の一つかもしれない。
私も朝が弱いわけではない。

シャワーを浴びて、着替えと化粧を済ます。
シャワールームから出ると、竣は窓際の椅子に座り、業界紙に目を通していた。
傍らには、すでに読み終えたと思しき経済新聞と、自分で淹れたであろうドリップコーヒーのカップ。

毎回さほど変わり映えのしない光景に、今日も安心する。

「司紗もコーヒー飲む?」

紙面に目を落としたまま竣が尋ねる。

「うん、自分でやるからいいよ。」

私はそう答えると、部屋に備え付けてあるポットの前に立った。
素早くコーヒーを淹れると、彼の向かいの椅子に腰掛けて、テーブルの上の経済新聞を拝借する。

「昨日出た短観の記事は三面。司紗お気に入りのアナリストの解説付きだ。」

さり気ない言葉だが、やはり私の興味のツボを心得ている。
毎回こうして向かい合って新聞を読んでいれば、相手がどの記事に目を止めるかということは、自ずと分かってくる。

私は、彼のアドバイスどおり、三面を読んでから、全体を一通り流し読みしていく。
ふと、ある記事に目が止まった。
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