残念御曹司の恋
今日は、ようやく迎えた姉の結婚式だ。
約一年前、私のナイスアシストによってようやく実を結んだ姉の恋。
そこからは、まさに強引な御曹司の成せる業なのか。
あっという間に入籍して、姉が東京に戻ると同時にマンションで一緒に暮らし始めた。
しかし、大企業の御曹司ともなると、さすがに挙式・披露宴まで早業とはいかなかったようで、方々への挨拶や、準備を重ねて、ようやく今日という日を迎えたようだ。
隣でハンドルを握る修司も今日の出席者だ。
半年前、姉から直々に出席して欲しいと言われた彼は、最初はそれを断った。
家族公認の仲といえども、確かに微妙な立ち位置だ。
『新婦の妹の恋人』
席次表の肩書も何と書いていいのか迷うだろう。
一度はそれで決着したものの、騒動はその一ヶ月後に起こった。
「紫里、結婚しよう。」
私の誕生日に少しだけ洒落たレストランで食事をした。
デザートを待っている間、急に黙って真面目な顔をしたと思ったら、次の瞬間に告げられた言葉に、驚きすぎて言葉が出なかった。
ぽかんと口を開けたまま、ぼーっとする私の前に、ちょうど運ばれてきたデザートプレート。
その横に、修司は小さな四角い箱を置いた。
ビロード張りの赤いそれは、数ヶ月前に見たものと同じで、開けなくても中身が何かくらいは分かる。
「本気なの?」
優しく微笑む彼を見つめて問いかければ、今度は少し緊張した声が返ってきた。
「本気だよ。一年くらい前から考えてた。」
「全然知らなかった。」
「だろうな。紫里はあんまり、人生設計とか考えないタイプだしな。」
「いつも、行き当たりばったりで悪かったわね。」
図星を突かれて、思わず言い返した。