残念御曹司の恋
「でも、そんなところも含めて、紫里のこと好きだから。一緒にいると、わくわくするし。」
「ハラハラの間違いじゃなくて?」
「どっちでもいいよ。とにかく、紫里とずっと一緒に居たいだけ。」

甘い言葉を囁かれ、顔を赤らめるところだが、私にはそんな余裕はなかった。
目の前の恋人に生涯を共にしたいと乞われている。
だけど、私にはそれほどの価値があるだろうか。
改めて自分に問いかけてみても、私にはまるで自信がなかった。

「私、定職にも付いたことないよ。」
「別に気にしない。ちゃんとバイトは真面目にやってるじゃん。」
「大学も出てないし、資格とかももってない。」
「俺の奥さんになるのに、資格は必要ないけど?」
「料理も、唐揚げと餃子しか作れないし。」
「毎日同じは嫌だけど、交互に出てくるならギリ大丈夫。」

我ながら情けなくなってきたけど、私は不安を次々に口にした。
その全てを、修司が笑いながら許していく。

「もう言い尽くした?」

散々弱音を吐いて黙り込んだ私の顔を、彼が柔らかく微笑みながらのぞき込んでくる。

「じゃあ、大丈夫だね。次に何か思いつく前に指輪はめちゃおう。」

そう言って小箱の中からリングを取り出し、強引に私の左手薬指にはめた。
それは、姉の指輪を探した時に見た、私のお気に入りのデザインのものだった。

「え?これ…」
「どんな指輪をもらうかじゃなくて、誰にもらうかが大事なんだろ?」
「やだ、お義兄さんに聞いたの?」
「うん。でも、どうせなら指輪も相手も両方好きな方がいいだろ。」

そう言いながら、彼がいつものように屈託なく笑う。

「ね、紫里。俺のこと好き?」
「もちろん、好きよ。」
「じゃあ、大丈夫。安心してお嫁においで。」

私は目が涙で霞むのを必死に堪えて、笑顔で頷いた。
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