彼があたしを抱くとき

その季節になるときまって、
ひとつの思い出にとらわられる。

春の記憶がほとんどない。

八ミリを音声なしで見るように、
私の頭の中に映像が動きだす。

雨が黄色や白の菊の上にふりそそいでいる。

あたしは祖父母の縁先から、
それらの花が水を含んで、
首をたれる様をみていた。

秋も末の、冷々とした日であったのを、よく覚えている。


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