彼があたしを抱くとき

めくりながら、
線の引いてある部分の文字を意味もなく追う。

ふと思い立って、
初めて口づけをした時と同じ場所に立ってみようと、
そっと足音をしのばせて、窓際から少し奥まった所に立つ。

息もひそめた。

静けさをこわしてはならない。

軽い緊張が、
あの時の感覚を鮮やかによみがえらせる。

目をつぶる。

首をそっとそらす。

あごからのどへかけて、
冷涼な空気が、触れる。


< 77 / 363 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop